会社によっては、社員が自社株を購入するシステムがあります。これは、会社の安定経営を目指したり、社員の愛社精神を養い、やる気を出させたりする上で、企業にとって重要ですがもう1つ、働く側にとっては、配当の分配や株価上昇における差益などを得られるというメリットもあります。この自社株購入によって、思ってもみない高額の財産が遺族に残されていたという事例があります。
30年ほど前に亡くなったご主人は、生前、設立間もない中小企業に勤務していた会社員で、役職は年齢相応の課長職。いわば、普通の会社員だったといえます。
その会社には、自社株購入のシステムがあり、ご主人もほかの社員と同様に、給与天引きで購入代金を支払っていました。これが、結果として放置された財産となり、その後の株価上昇により大きな額となったのです。
多くの方は、給料を受け取ると、税金、社会保険など、給与から自動的に引かれる項目については、あまり注視せず、手取り額を気にかけます。この奥さまも同様で、ご主人の給与明細を見たことがなく(あるかもしれないが記憶がない)、当然、給与天引きで自社株を購入していることも「知らなかった」といいます。
会社はその後、順調に業績を伸ばし、東京・銀座の一等地に自社ビルを構えるほどになりました。その間、売上、利益ともに拡大、社員数も増え、幾度となく増資も行われました。そのために、ご主人が保有していた株の価格も時価で約5億円にまで上昇していたのです。
ご主人が亡くなったときに、会社はどう対応したのか、株主総会をどうしていたのか、などの詳しい事情はわかりませんが、30年という長い年月を経て、ご家族の手元に財産がわたったことで、ご主人も喜んでくれるに違いありません。
東京都・中央区
被相続人:父
相続人:妻・子(2人)
総額:約5億円